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2007/05/07 月

月食の夜はやばいぜ (2001.07.12掲載)

【社長のひとり言《Classic》】

俺は朝から大汗をかいていた。
本日は、仕事帰りに浦和との対戦場となる国立競技場に直接向かい、そこで野宿するため大型テントとブルーシートを両手に抱え仕事場へ向かっていたのだ。
結構、これが重い、全身汗まみれである。
なんとか仕事場に着き、入り口を通ると、仕事場の守衛が俺に厳しい視線をあびせて来た。
(あぁ、そうさ、野宿さ・・・)と心の中で叫ぶ。
まったく弛みきった仕事を早々に切り上げ、夕方には国立競技場に向かっていた。
青山1丁目からタクシーに乗り、千駄ヶ谷門に到着。
あまりの暑さと荷物の重さで頭が狂い、贅沢にもタクシーなどを使ってしまった。
時刻は夕方18:00、覚悟はしていたのだが、当然、そこには誰もいなかった。
持ってきたブルーシートを敷き、シートの上で寝転がる。
しばらくすると、俺の目の前に黒のアポロキャップをかぶり、紺のポロシャツを着た老人がこちらを見ながら立っているではないか。
しかも、その表情は少し微笑んでいた。
ひとりでヒマをもてあましていた俺は、さっそくその老人に話しかけた。
「おじさん、地元の人?」
「・・・おう」
「このあたりは住みやすいでしょう、たいしたもんだよなぁ、こんな地代の高い所に住めるなんて」
「そんなことないよ・・・」
「謙遜しちゃって、偉いよ、じいさん」
と、そう俺が誉めると、その老人はちょっと困ったそぶりでこう言った。
「たいしたことないって、だって、オレの住まい、そこのヤブの下だもん・・・、テント暮らしよ・・・」
そうです、どうやらホームレスの方に話しかけてしまったようです。

その老人は”岩田さん”という名前で、今年で60歳。
でも、2年前も60歳だったらしい。
どうやら、60歳から年をとならいらしい。
テントで飼っている三毛猫を探している途中で、俺と話しこんでしまったそうだ。
かっこうの暇つぶしと思い話しかけてしまったが、その浅はかな行動を、俺はスグに後悔した。
なぜかというと、その老人、ちょっとおかしいのだ、狂っているのだ。
なぜか話しが、最近の不景気についての話題になってしまった時など、目に涙をためて日本政府の経済政策の不手際を訴える。
(俺に、どーせーちゅうねん・・・)
「ふざけるなー、政治家ども〜」と怒鳴ったかと思うと、スグに「おい、若いの出身はどこよ・・・」などと聞いてくる。
怖い、とてつもなく怖い。
もう精神的に違う世界にいっちゃってる。
俺は、早くどっかにいかないかなぁーと思いながら、出身地の質問に対しても適当に受け応えしていた。
「福島の三春・・・」などと適当な地名を応えた。
「おぉ、そうか、オレは坂田だよ、いやー、近いなぁ、兄ちゃん・・・」
チッ、ついていない・・・、適当に応えた地名がまさにビンゴ状態。
こちらから盛り上がる話題を投げかけてしまった。
その後、故郷の話しをひととり聞かされ、この辺で終わるだろうというタイミングで、俺はシメの言葉を投げかけた。
「・・・そうそう、あの辺の人達は、本当にいい人達が多いよね」
これで、この言葉で、この話題も終わるだろう。
誰だって、自分の故郷の人達が誉められればイヤな気分にはならない。
岩田さんも喜んで立ち去ってくれるはずだ。
しかし、そう思った俺の考えは甘かった。
それまで故郷の話で上機嫌だった岩田さんの表情が、俺のその言葉を聞いた瞬間に曇った。
「人の苦労も知らないで、オレの悪口ばかり言いやがる、だから故郷には帰らない、あの奴ら、今度合ったらぶち殺してやるー」と感情を剥き出しにして怒鳴り出した。
(おいおい、頭が逝かれてるよ・・・)
どうやら、故郷にいい思い出がないようであった。
そうかと思うと、次の瞬間にはニコリと笑って、「兄ちゃん、ハラへってないか?」と聞いてきた。
ここで、「えぇ、へってます」などと言ったら、何を出してくるかわかったもんじゃない。
すかさず、「いいえ、へってません」と応える。
「これ、兄ちゃんのテント?」と言って、俺の横に建っているテントをさす。
もぉ、この辺から会話のキャッチボールが大暴投。
「うん、そうだけど」
「兄ちゃん、コンパネ知ってる?」
「う、うん?」
「1回で、あれ3枚が限界だなぁ。運ぶのは・・・」
(何言ってるんだよ、このジジィ・・・、怖いよ〜、誰か来てくれ。来て、この窮地を救ってくれ。)
俺は祈った。すると、その願いが神にとどいたのか・・・。
「あっ、うちの猫がいた」と言うと、岩田さんは猫の方に向かい歩いていった。
ホッとする俺。
やっと開放された。
今夜は月食、そんな夜の野宿は気をつけよう。

それから10分後、岩田さんはペットの猫を抱き、コンビニの袋をさげて、再び俺の前に現れた。
「これ食べな」と一言。
抱いている猫がビァーゴとしゃがれたうめき声で鳴く。
「ありがとう」とお礼を述べる俺。
また、ビァーゴと猫が鳴く。
全身皮膚病のように毛がまだらに抜け、しかも片目がない。
お世辞にも可愛いとは言いがたい岩田さんのペット。
でも俺は「可愛い猫ですね」などと思ってもないこと言ってその場をつくろう。
「もしかして兄ちゃん、サッカーで並んでるの?」
「うん」と俺が応えると、岩田さんは「アハッハッハッハッハ・・・」と笑いながら去っていきました。
どうやら岩田さんは、俺のことを、この柏の貴公子「みゃ長」を、こともあろうかホームレスの新人だと勘違いしていたようです。
おのれー、岩田めー。

岩田さんが立ち去った後に残されたコンビニ袋。
中身は玉子サンドウィッチ、スパゲッティ、ペットボトルの緑茶(しかし、中身は麦茶色)。
玉子サンドなどは、凄い汗をかいている。
食べるか、食べまいか。捨てるか、捨てまいか・・・。
うーん、捨てよう。
俺は、目の前の神宮スケートリンクに忍び込み、そっと岩田さんからのご好意を置いてきた。

追伸・・・
今回の浦和戦、国立競技場で行われたが柏のホーム試合だったのだが、柏のサポーターは、本当に現金というか、正直というか、チームの成績の良し悪しで客の入りがハッキリしている。
まぁ、そんな理由で来ない連中は、サポーターとはいわないんだけどね。
それに反して、敵ながらあっぱれと浦和サポーターに言いたい。
客の入りが、ホームである柏を越えているんだから。
俺は情けなかった。
まぁ、ひと昔に比べたら、少しは進歩しているのかもしれないが・・・。
あのナビスコ優勝したときに、国立に来た連中はどこにいったのだ。
そして、その優勝報告で柏駅前のデッキに集まった何千人の奴ら。
そして、そして昨年の鹿島との最終決戦に足を運んだ奴らは、いったいどこにいったんだよー。
試合に勝った、負けたもそうだけど、ホーム試合なのに相手サポーターの方が多いなんて・・・、この屈辱はサポーターなら忘れてはならない。
そして、サポーターというのならば、関東近県の試合ぐらい観に来い。
ちなみに、岩田さんは、次回の国立開催試合のために、もう並んでいるそうです。